連載
#9 あなたの知らないトイレ
多くが苦しむ膀胱炎…「めっちゃ痛い」長時間労働の26歳女性が語った
記者も悩んでいる若者の頻尿の取材を進める中で、頻尿の一つの原因に突き当たりました。それは膀胱(ぼうこう)炎。女性の多くが経験する身近な病気です。長時間トイレに行けない職場で働く記者と同じ26歳の女性が大変さを語ってくれました。対処法についても専門家に聞きました。
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#9 あなたの知らないトイレ
記者も悩んでいる若者の頻尿の取材を進める中で、頻尿の一つの原因に突き当たりました。それは膀胱(ぼうこう)炎。女性の多くが経験する身近な病気です。長時間トイレに行けない職場で働く記者と同じ26歳の女性が大変さを語ってくれました。対処法についても専門家に聞きました。
トイレが近い、そんな悩みを抱えているのは年配の方だけでなく、若者にも多いことをご存じでしたか。20代の記者も映画館や長距離バスでと、頻尿の自分に悩まされています。原因は様々で奥が深いこの問題、若い女性と男性に多いパターンを2回に分けて紹介します。一番最初に突き当たったのは膀胱(ぼうこう)炎。女性の多くが経験する身近な病気です。長時間トイレに行けない職場で働く26歳の女性が大変さを語ってくれました。(朝日新聞デジタル編集部・影山遼)
語ってくれたのは、温泉地の宿泊施設で働く阿部ちひろさん(26)。阿部さんが膀胱炎になったのは社会人になって1~2年目のことでした。「仕事での長時間の拘束が背景にあるのでは」との自己分析です。
仕事は朝7時〜深夜0時の間での変形労働時間制。しかし、繁忙期には毎日10時間以上の長時間勤務になるのが現実のようです。途中に休憩が1時間ありますが「ほとんどとれません」と話します。なかなかしんどい環境です。「24時間、お客様がいらっしゃるから気が抜けません。吐瀉物(ゲロ)の片付けなど様々なトラブルもありますし。こうした働き方が私たちの膀胱を痛めているのです」と訴えます。
さらに着物で仕事をしていることで、水分があまり入ってこず、トイレにも簡単に行けないことが原因の一つにはないかとも推測します。「膀胱炎が癖になっているのでしょうか」。膀胱の上にある腎臓にまで感染が及んでしまう腎盂(じんう)炎にもなりかけ、点滴を打ったこともありました。
高校時代にも膀胱炎になったという阿部さん。この時の原因はうっすら分かっています。それはミニスカ。気合の入った女子高生のプライドからか、冬場もミニスカで通したことで「超寒い」状況でした。それでもトイレを我慢し、水分をあまりとらなかったことも相まって、学校で1回もトイレに行かない日もあったといいます。
それが、ある日突然「用を足す時にめっちゃ痛くなりました」と阿部さん。「尿が残る感じだけれど、はっきりと理由が分かりませんでした」と振り返ります。熱も出て、学校を休みました。母親に「膀胱炎じゃないの」と言われ、処方された抗生物質を用いて乗り切ることができました。
なぜ女性は膀胱炎になりやすいのでしょうか。福井大学医学部泌尿器科の教授の横山修さん(61)が「女性は尿道が短く、肛門や膣(ちつ)と近いので細菌が膀胱に入りやすいのです」と解説してくれました。膀胱炎とは簡単に、大腸菌などの細菌が原因で炎症を起こしている状態を指します。
以前は稀と言われていましたが、若い女性に多いのが間質性膀胱炎です。一般的に膀胱は200~300ミリリットルたまると尿意を催し、最大400ミリリットルまで我慢できます。この場合は100ミリリットルで我慢できずに強い尿意を感じるというものです。横山さんによると「原因は不明」。治らないそうです。下腹部に痛みをともなうことが多く、「猛烈に痛くなってトイレに行く。そうしてようやくやわらぐ」というかなり厳しめの病気です。
頻繁にトイレに行くため、日常生活にも支障を来します。一部のタイプ(ハンナ型)は2015年に指定難病となりました。横山さんは「意外と男性にもいます」と話します。
「痛み止めを服用している人もいますが、とにかくトイレが気になって集中できません。社会人で忙しい人だとより大変です」と横山さん。冷えてもダメ、塩辛いものもダメ、アルコールもダメとなかなか過酷な環境に追い込まれます。
そもそも、どのくらいの頻度でトイレに行く人を頻尿というのでしょうか。日本泌尿器科学会によると、朝起きてから夜寝るまでの排尿回数が8回以上の場合を頻尿と言うそうです。睡眠時間を8時間と考えると、起きているのは16時間。2時間に1回以上行く人を頻尿と言える気がします。
少し目線を変えて、女性に多い頻尿の原因を紹介します。「それは過活動膀胱です」と横山さん。日本泌尿器科学会によると、国内で800万人以上がかかっているとか。通常は膀胱がゆるむことで尿をためることができますが、逆に縮んでしまうことにより、200~300ミリリットル未満で耐えられなくなるのが過活動膀胱です。
過活動膀胱の主要な改善方法(膀胱炎のではありません)は薬。それ以外では行動療法があります。これは単純で「おしっこを我慢する」。どんどん我慢できる時間を長くしていき、できることなら前のトイレから2時間以上間を空けます。ためられるということを体にたたき込むのです。
他には体重の減量といった生活指導も人によっては効果があるそうです。
一方、仙台市の大崎智都(ちず)さん(25)は妊娠5カ月ですが、「3ヶ月たったころから尿意をかなり頻繁に感じるようになりました」。仕事中に我慢していると「下腹部に痛み」があり、特にひどかったのが夜です。3回ぐらいトイレに行きたくなって目が覚めることが続き、眠れなかったといいます。
大崎さんは「赤ちゃんが順調に育っているのは嬉しいですが、つわりが終わったと思ったら激しい頻尿。子どもがお腹にいるということは、尿意という意味でも大変なことです」と話しました。
様々な原因の一つとして膀胱そのものの変形があります。膀胱の下にある「骨盤底筋」が妊娠を経た出産などによるダメージなどを受けることで、膀胱の垂れ下がりが起きます。「肛門や膣を閉めたり緩めたりを繰り返す」という体操や体幹を鍛えるトレーニングが対策として有効です。
最後に、横山さんは「どんな場合でも水分や塩分のとりすぎにも注意が必要です」と強調しました。
記事を書いていたところ、同僚の記者からも頻尿に苦しんでいると連絡が寄せられました。東京社会部の河崎優子記者(28)は、毎晩2回ほど尿意で目が覚めるそうです。
日中トイレに行く回数は人並みですが、問題は夜。寝る数時間前から飲み物を控え、ベッドに入る直前には必ずトイレに行きますが、2年ほど前からほぼ毎日夜中に目覚めるといいます。「トイレ行きたいと一度思っちゃうと、尿意が気になって寝れんくなります」と顔をしかめます。トイレに行く夢で目覚めることもあるそうです。
以前住んでいた家は2階建てのメゾネットタイプで、2階の寝室から階段を下りて1階のトイレに向かわなければなりませんでした。思い出すのは、小学生の頃。一緒に寝ていた母が夜中にトイレに行く姿を見て「なんでそんなに行くんかと思っとったけど、まさか自分もなるなんてね」。
私も日々の生活に気をつけていかないと、強く思った取材になりました。ディープなトイレの話題、これからも我慢強く追っていこうと考えています。
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